歌舞伎の舞踊などの演目の際、舞台の床に特別に「所作台(しょさだい)」という板が敷き詰められます。普段の舞台も木の床なのに、どうしてわざわざ所作台を敷き詰めるのか? 今回はそれについてちょっと解説をしてみたいと思います。
普通の舞台の表面は釘を打ったりして、近くで見ると結構デコボコしています。舞踊では足のすべりがよくないといけませんので、表面がなめらかな「所作台」を敷くのです。また舞踊では足拍子(足で音をならせる)を踏んだり、飛び上がったりすることもありますが、床が固いといい音が出ませんし、足をいためることもあります。所作台は、ほどよくクッションになりまた、音を響かせる役目もしているのです。それから『義経千本桜 川連法眼館』など舞踊ではないけれど、舞踊的な動きが多い演目でも、所作台が敷かれます。
(2010年に閉場した四代目歌舞伎座の舞台の板)
この所作台を敷き詰める作業は、客席のみなさんも、花道の部分についてはご覧になれる機会があると思います。お客様がいらっしゃるときに花道に所作台を敷くときは、安全のためにあえて2人で運んでいますが、実は1人でも大道具さんは運ぶことができます。所作台は、近くで見るとすごく大きく、そして重たいのですが、大道具さんはその長くて大きい所作台を実にうまくバランスをとって運んでいきます。少し板を傾けて肩を入れて、自分の身体の重心と合わせているのだと思います。そして驚くくらい早いスピードで運んでいきます。私もためしに挑戦してみようと思ったことがありましたが、やっぱりこわくて持ち上げるところまではできませんでした。大道具さんのインタビューをしたときに、以下のような話がありました。
「大きなもの、長いものを持つには技術が必要なので、いくら体格がよい人でも、最初のうちはうまく持てずに倒れてしまいます。慣れるまでは先輩に補佐をしてもらいます。初めの頃は、終演後に劇場に残って練習していました」
「運ぶ技術は体で覚えてもらうしかないですね。ですから、倒してもよさそうな道具は、あえてひとりで持たせてみるんです。そうしないといつまでたっても持てるようにはなりません」
所作台は、人間が運びやすいようにちょっとした工夫がされているようでした。このあたりについてはまた、大道具さんのWebサイトで企画をして、いつか詳しく特集記事にしたいと思っています。所作台はよく考えられた素晴らしい道具です。地味だけど、陰で舞台を支える道具に私はとても惹かれます!
歌舞伎座舞台ホームページ
大道具さんのインタビュー記事(執筆は田村が担当しています)
http://kabukizabutai.co.jp/recruit/interview/butai.html
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