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田村日記

(7) 2015年 春の巻

15/01/02 UP

● 2015年3月6日(金)

【日本のあかり博物館】
あかり

長野県の小布施町に取材に行ってきました。小布施には、お肴謡(おさかなうたい)という文化が残っています。宴会などの中締めに小謡をうたうもので、人々の生活のなかにいい形で謡が継承されているのです。しかし、そのお肴謡をする人も高齢化してきており近年は衰退気味だったとのこと。ところが、最近、お肴謡がまた元気を取り戻してきたそうで、その様子を拝見してきました。地域全体がこんな感じで謡に親しんでいたら、子どもさんも能も身近に感じるかもしれませんね。

小布施には小さな美術館、博物館がたくさんあります。取材が終わった後にいろいろ巡ってきたのですが、なかでも面白かったのが「日本のあかり博物館」。行灯や提灯など、日本古来からの「あかり」の道具がたくさん展示されていて、見応えがありました。歌舞伎の小道具でおなじみのものもたくさんありました。
事前にネットで調べていたのですが、暗闇のなかで実際に行灯をつけてもう体験講座があったので予約しておきました。
蝋燭ではなく、菜種油に紐状の芯(灯心 とうしん)を浸してそこに火をつけるのです。実際に見るのは初めてでしたが、やはり暗いですね。芯が油から浮き上がらないようにおさえておく小さな道具(「かきたて」)があり、それで火の大きさを調整。シンプルながら機能的なしくみ。

灯心の素材は、い草。まわりの硬い皮を取り除いて、スポンジ状の部分だけにしたものを用います。博物館で販売していたので、買ってみましたが、本当にスポンジのようでした。

あかり1

日本のあかり博物館
http://nihonnoakari.or.jp/

歌舞伎の小道具と同じような道具がたくさん展示されていたので、小道具担当の近藤真理子さんにもご報告してみました。彼女もとても興味があったようで、こんなお返事をくださいました。「芝居で使われてる道具が、実際どういうもので、どうやって使われていたのかなど、使い方も含めて伝承していけたらいいな」。なにか一緒にそういうことができたらと私も感じました。

小布施では、ゲストハウス小布施という小さなホテルに泊まりました。古い町家を改装した宿で、外観は和風ですが部屋のなかはベッドのある洋室です。床暖房もあって温かく快適に過ごすことができました。朝食もとってもおいしかったです。まちの中心部にあるので、立地的にも便利でした。

ゲストハウスおぶせ

ゲストハウス小布施
http://www.ala-obuse.com/#!guesthouse/ctzx

● 2015年2月23日(月)

【下町銭湯観察記】
写真
今年に入ってから、近所の銭湯にこまめに通っています。なにしろ家から歩いて30秒くらいにあるのです。近年、リニューアルしてとってもきれい。おまけに温泉まであります。通い始めてみると、どうしてこれまで通わなかったのか不思議なくらいです。若い友人が銭湯によく行っているようで、じわっとその影響を受けたのと、年末ごろからちょっと足の調子が悪いこともあり、「これは温泉のチカラを借りねば!」という危機感もありました。ちなみに東京の銭湯料金は、460円。10枚つづりの回数券を買うと1回あたり420円となります(小市民の私には高額です!)

近所の銭湯に通っていると、お客さんの傾向みたいなのが見えてきます。これが、なかなか観察しがいがあります。私は夜の9時ごろから行くことが多いのですが、その時間帯は女湯はけっこう混んでいます。ちょっと不思議なのは、お客さん同志があまりおしゃべりをしていないこと。うちは下町なので、もっとおしゃべりをしているかと思ったのですが、そうでもないのです。湯船でもシーンとしています。逆に男湯からは、いつもガヤガヤとしゃべり声がきこえてきます。おじさん同志が政治の話をしたり、親子があれこれしゃっていたり。女より男のほうがおしゃべりするのが不思議でした。

それで、あるとき少し早めに夕方6時ごろに銭湯へ行ってみました。この時間帯もすごく混んでいます。そして、この時間帯のお客さんは、とにかくよくおしゃべりをしていました。ここにいたんだー!下町のおしゃべり好き。湯船に入っていると、おばあさんが「あー雨が降ってきたみたいねー」と話しかけてきます。洗い場のお隣のおばあさんは、先にあがっていかれたのですが、いかれるときに「どうも、どうもありがとうございました。またよろしくお願いしますね」と、ものすごく丁寧に挨拶をされていきます。脱衣所でも、おばあさま方は、本当におしゃべりがさかんで「私の人生はいつも失敗ばかりよー」「なにいってんの、失敗は成功の母じゃない」なんていう会話も(笑)。

あるとき温泉につかりながらおばあさんと地震の話をしていて、「東京もこわいわねー」「ほんと気をつけようがないわよねー」みたいな感じでしゃべっていたのですが、「いつ死ぬかわかんないけど、私はも〜い〜けどね〜」みたいに、軽〜くさっぱりとしたトーンでお話されていました。たぶん、普通に下町で生きてこられた方だと思うのですが、その肩の力の抜け感などが、すごく気持ちいいのです。私もこんな風にさらっと言えるように生きたいなーと思いました。

こんなこともありました。小さな子どもを2人つれたお母さんが、お風呂からあがって着替えようとしていたら、子どもがあっと言う間に走って、共有フロアへ行ってしまいました。まだお母さんは服を着ていないので、追いかけられません。そこで、私が代わりに走って子どもを確保! 脱衣所まで連れて戻るということも。うちの近所の銭湯は、子ども連れも多いです。

写真は、私の銭湯セットの一部です。タオルは使わず、少し長めの和てぬぐい。これで充分です。そして石鹸箱。お気に入りの銭湯がみつかると、とっても楽しいですよ。小確幸(小さいけれど確かな幸せ)です。

東京都公衆浴場業生活衛生同業組合
http://www.1010.or.jp/index.php

● 2015年2月2日(月)

【自分の内面から発見すること】
チームラボ
沖縄で演劇をやっている友人が東京にやってきたので、久しぶりに会いました。なにか展覧会を見たいとのことなので、東京で開催している展覧会情報をお知らせしました。なにしろ月曜日なので、多くは休館。いろいろ悩んで、彼女は日本科学未来館の「チームラボ 踊る!アート展と 学ぶ!未来の遊園地」を選び、私はそれに加えてもうひとつ出かけるとしたら〜と思案して、表参道の岡本太郎記念館を組み合わせることにしました。ちなみにどちらも展覧会場内の撮影はOKでした。

「チームラボ 踊る!アート展と 学ぶ!未来の遊園地」
http://odoru.team-lab.net/

チームラボ展のほうは、最先端のデジタルアートという感じで、インタラクティブなしかけや、あっと驚く要素が多かったです。日本の伝統の美意識をうまく昇華させている作品もあって、楽しめました。驚いたのは、開館と同時くらいに出かけたのに、会場内は親子連れでいっぱいだったこと。週末は混み合って大変なのだそうです。子ども達がそれこそ必死になってアートの世界で遊んでいました。

若冲 「チームラボ 踊る!アート展と 学ぶ!未来の遊園地」

科学未来館を出て、「ゆりかもめ」に乗ったりしながら、岡本太郎記念館へ。こちらは「岡本太郎の言葉」という企画展をやっていました。いわゆるオードソックスな展示。でも、展示された「岡本太郎の言葉」がずしっと語りかけてきて、自分のなかでの静かな対話ができました。いろんなタイプの展覧会があって、それぞれのよさがあると思いますが、私は岡本太郎記念館のような展覧会が好きだなと感じました。自分の外側からたくさん投げかけられる受け身よりも、じっと自分の中の受信力を高めてそこから自分で響くものを探していくほうが好きなのだと思います。岡本太郎記念館 館長 平野暁臣さんによる展覧会趣旨もぐっときます。

<展覧会のチラシの抜粋(岡本太郎記念館 館長 平野暁臣)>
まじめな芸術論から軽妙なエッセイまで、テーマもジャンルもじつに多様だが、いずれも最後はひとつの命題に行き着く。
どう生きるか、だ。

人間、だれでも、生きている以上はつくらぬくべきスジがある。
岡本太郎はそう言った。次はぼくたちの番だ。

岡本太郎 岡本太郎記念館 アトリエ

岡本太郎記念館
http://www.taro-okamoto.or.jp/

能という芸能も、自分のなかにたくさんのなにかが詰まっていないと楽しむことができないタイプのものだと思います。現代には、もっとラクチンに楽しめるエンタテインメントがたくさんありますが、一度、能で感じるようなプチトランス状態を経験すると、他では物足りなくなってしまいます。自分を満たしていくのには時間がかかります。でも、そこがおもしろいところだと思います。

太郎 岡本太郎記念館の庭にて

● 2015年1月25日(日)

【自然科学の学問から学ぶこと】
20150125
「ゴリラ来日60周年記念講演会」(主催:恩賜上野動物園 会場:東京大学弥生講堂一条ホール)にでかけてきました。伝統芸能とずいぶんかけはなれた内容のように思われるかもしれませんが、それがそうでもないのです。この講演会は2日間にわたってさまざまな立場の人が講演を行いましたが、こうした自然科学の学問の手法や考え方は「伝統芸能の道具」を調査したり研究したりする上で非常に参考になるのです。

自然科学の世界の発表では、調査結果をしっかり提示してそれに基づいて、発言がなされます。信頼のある根拠が示されるので説得力があります。道具の調査も、ぼんやりとした感情論ではなく、きちんと根拠となるような資料を作り出さなくてはいけないと感じています。

講演をされたなかには、コンゴ共和国で環境保全の仕事をされている西原智昭さんがいらっしゃいました。私も日頃から調査に対する姿勢や課題解決を進める上での考え方などを教えていただいています。このたびの講演では、日本の動物園の存在の意義について厳しく問いただしておられました。それから、京都大学総長でゴリラ研究の第一人者の山極寿一さんも講演をされました。京大総長が東大内で講演するのは、初めてかも?と司会者が言われていて、山極さんが笑っておられました。山極さんのお話は最初のうちはみんなを楽しませるようにソフトな感じではじまりましたが、「日本にこんなにたくさんの動物園が必要であるか?」「生息地の保全につながる動物園のあり方を考えなくてはならない」「先進国が動物園のあり方をしっかり考え、身をもって示さないといけない」と日本の動物園のあり方、姿勢に対して大きな問いを投げかけておられました。

以前、山極寿一さんが書かれた『家族進化論』(2012 東京大学出版会)を読んで、非常に多くの気付きをいただきました。ひとつの世界を掘り下げていかれる方は、話されることが普遍的で、全然違うフィールドにいる私にもビンビンと共感してきます。たとえばこの講演では「何を学び、どういう世界につなげるか?が大切」というようなことを話されていましたが、本当にそうだなと感じました。自分の欲求を満たすために学んだり、調べたり掘り下げるのではなく、「どういう世界につなげようとしているのか」が大事だなと思います。

この日記でも何度も書いていますが、生のお話をきける講演会はとてもいいですよ。しかもこの講演会は無料でした。ネットなどもあって、いろんな情報が手に入りやすい時代ですが、身体を動かして、実際に人の話をきくことはなにものにもかえられません。みなさんも、ぜひ情報をキャッチして、おでかけくださいね。

山極寿一『家族進化論』(2012 東京大学出版会)
https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784130633321