百姓蓑(復元)MINO
Vol. 11

(11)2014年10月 「百姓蓑」を民俗学からアプローチする

msabihoumon

15/06/11 UP

2014年の夏に、百姓蓑の材料であるチガヤの収穫を行い下準備はだいたい整いました。千葉県の博物館「房総のむら」で蓑の作り方をご指導しただくのは、先方の都合により2015年の春を予定しています。春までに少し時間があるので、歌舞伎の「百姓蓑」が民俗学的にはどのような位置づけになっているのかを調べてみることにしました。

この件については、以前、文化人類学の川田順造さんから民俗学がご専門の武蔵野美術大学の神野善治さんをご紹介いただいていました。しかし、なかなか日程調整がうまくいかず、お会いできないまま随分日にちがたっていました。10月にはいって、やっと神野善治さんにお会いすることができました。

武蔵野美術大学 教授 神野善治先生のプロフィール(博物館学、民俗学)
http://profile.musabi.ac.jp/pages/2009032.html

武蔵野美術大学に出向いて、神野善治さんにお会いしたのですが、お忙しいなか蓑についていろいろ調べてくださっていました。神野さんご自身も「こんな風に蓑について詳しく調べたのは初めてだったので、おもしろかった」とのこと。以下は、ご教授いただいた情報の簡単なメモです。

・蓑については、専門の研究者がいない。
蓑は、種類のバリエーションが少ないなどの理由から、民俗学では人気がないアイテム。
ちなみに「しょいこ」は人気があるアイテムで、研究者が多いとのこと。
人気のあるなしの基準が、おもしろかった。
・藤浪小道具の近藤真理子さんからお借りした実物の「百姓蓑」を持参してみてもらった。
この蓑が民俗学的にどう位置づけられるかは、わからないとのこと。
・まずは、さまざまな蓑を調べて、分類にわけてみるとよいとのこと。
胸当て、腰みの、背あて、バンドリ、ヒロロ など。
・蓑を定義するというのは、案外むずかしいとのこと。隣接領域が曖昧で、境目がみえにくい。
神野さんが分類マップみたいなものを簡単につくってくださっていました。
・『写真でみる日本生活図引8 わざ』も面白い資料。
・道具の名前の漢字もよくしらべてみるとよいと思うとのこと。
「蓑」という漢字。そこからいろんなことがひもとけることもある。
・伝統芸能で使われている道具の名前については、業界内だけで通用しているものなのか、
一般の言葉とずれていないかを調べることも大事。
・調査するときは、そのモノにくっついてきた「情報」「個性」も大切にするとよい。
・武蔵美の大学敷地内にある「民俗資料室」にもご案内いただいた。
http://www.musabi.ac.jp/folkart/
「民俗資料室」は、宮本常一が基礎をきずいた民具コレクションが膨大にある。日本有数。
2階の収蔵庫は、一般の人でも見学できる。
その2階の収蔵庫に、蓑の現物があった(20枚以上)。
素材もいろいろ、形もいろいろ。たぶん全国のものを網羅しているわけではないと思われるが「百姓蓑」と同じタイプのものはなかった。
以下の検索欄に「蓑」と入れると、いくつかヒットする。
http://rbfa.musabi.ac.jp/folkart/index.jsp

・民俗資料室では、沖田憲さんにもご挨拶できた(川田順造さんからは、神野さんか沖田さんへ相談するようにと指示があった)。武蔵美が発行した図録「武蔵野美術大学・民俗資料展 くらしの造形5 くさ わら つる」をいただく。

結局「百姓蓑」についての手がかりは、つかめませんでしあが、神野さんから貴重な情報をたくさんいただき、大変勉強になりました。蓑は民俗学的にバリエーションが少ないとのことでしたが、素人からみるとたくさんの種類があるように感じました。武蔵美の民俗資料室には、「百姓蓑」と同タイプのものはなかった。ここからも大きな事実が発見できました。つまり、「房総のむら」で、百姓蓑とほぼ同じ形の蓑に出会うことが出来、さらに作り方まで教えてもらえたということは、奇跡に近いともいえる!ということです。「房総のむら」をご紹介くださった、植物学者の北澤哲弥さんの功績は非常に大きいということに、ここでやっと気づくわけです・・・。ありがとうございます。北澤さん!

さっそく、藤浪小道具の近藤さんに会ってこのことを報告しました。歌舞伎の「百姓蓑」は、なんとなく蓑の代表であるような印象をもっており、日本全国の蓑の大部分は「百姓蓑」と同じタイプではないかと思うくらいでした。しかし、武蔵美での調査の結果、「百姓蓑」と全く同じタイプの蓑はみつけられず、おそらく「房総のむら」近辺の固有のものである可能性が高い。

以下は、近藤さんと田村の推測。
千葉エリアには、百姓蓑と同じタイプの蓑が一般でも使われていた。それを江戸歌舞伎で取り入れて小道具として使うようになった。昔の映画やテレビ番組の時代劇は、歌舞伎をもとにしていることが多く、歌舞伎の百姓蓑をテレビでも使うことが多くなり、一般社会に「蓑とは、こういうのもである」というイメージが広がった。民俗学的にみた「百姓蓑と同じタイプの蓑」の分布は、千葉エリアに局所的にあるもの。そして、日本人のイメージする「蓑」は、「百姓蓑と同じタイプの蓑」が一般化。

蓑は、歌舞伎や能楽、雅楽などにも小道具として登場します。また世界各国にも蓑はありますので、きちんと調べてみたいという気持ちが強まりました。いつか、取り組んでみたいと思っています。