百姓蓑(復元)MINO
Vol. 8

(8)2014年5月 チガヤについて学ぶ自主勉強会を開催

topchigaya

15/04/06 UP

百姓蓑の素材がチガヤと判明し、その作り方も千葉県の博物館「房総のむら」の方達から教えてもらえる段取りもつきました。チガヤの収穫は夏頃とのことでしたので、それまで少し時間があります。そこで、植物学者の北澤哲弥さんからチガヤという植物について教えていただくことにしました。

歌舞伎の小道具を担当する藤浪小道具は浅草に本社がありますが、道具を保管する倉庫が越谷にあります。倉庫の周辺はわりと自然も残っているので、その近辺でチガヤが収穫できれば今後、とても便利です。北澤さんによると5月ごろはチガヤが白い穂をつけている時期とのこと。藤浪小道具のみなさんにもチガヤを見分ける力をつけていただこうと、この時期に自主勉強会を開催することにしたのです。

chigaya02
藤浪小道具の倉庫見学の様子(左から伊藤さん、北澤さん、長村さん、近藤さん)

メンバーは、北澤さん、藤浪小道具から近藤真理子さん、長村みち子さん、伊藤裕和さん、そして道具ラボの田村の5名です。朝11時に越谷の倉庫に集合し、まずは倉庫を見学させていただきました。小道具のなかには植物素材のものも多く、なかには素材が入手しづらくなっているものもあるとのことでした。北澤さんにも実物をみていただきながら、抱えている課題についても具体的に相談にのっていただきました。

たとえば助六が持つ傘。昔、作ってもらっていたもののほうが品質がよいそうです。具体的には、傘を閉じたときの太さ。昔のものは、細い。助六の傘は、主役である助六が花道から登場して、この傘を持って、さまざまな動きを見せます。そこが第一の見せ場。傘を閉じたり開いたり、閉じた傘を持って動くところもあるので、その太さは重要。できれば、昔のように細いものにしたいが、今の技術だと無理とのこと。それから、手で握る柄(え)の部分は、竹でできていますが、その柄は、真っ直ぐでなければならないそうです。ところが製作している傘屋さんによると真っ直ぐなものが入手しづらいとのこと。

北澤さんにも実物の傘を見ていただきました。北澤さんによると、柄の部分の竹は、その種自体は、どこにでもあるものですが、竹藪(笹藪)の管理がよくないために、まっすぐなものが採れていない可能性もあるとのこと。竹藪が持続的に管理されることで小道具素材としての品質が向上するといったことがあれば、里山保全を行っている団体などと連携してもいいかもというアイデアも。竹藪は今は、生活用具の素材としての役割がないため放置されていることが多いが、「歌舞伎の小道具の素材として必要」という意義付けをすることで、手入れをしてくれるところがでてくるかもしれないというアドバイスもいただきました。加えて、まずは傘を作っている職人さんにヒアリングをして、どんな素材であることが理想かなど「こだわり」を聞き出すことが大事とのご意見もいただきました。

その後、みんなでお弁当を食べて、チガヤを探す自然ツアーに出発しました。第一の目的は「百姓蓑の原料となるチガヤを探す」ことですが、「越谷の倉庫近辺にある植物や自然などについて学ぶ」ということも北澤さんにリクエストしました。倉庫の周辺は思ったより宅地開発が進んでおり、豊かな自然という雰囲気ではありません。でも、水田や水路があり、ところどころに昔の風景が残っています。

13水路のチガヤ 白い穂をつけたチガヤを手に持つ北澤哲弥さん

倉庫の近くでは、残念ながらほとんどチガヤはみられませんでした。水田のそばにもチガヤはありましたが、除草剤で枯れていました。少し離れた水路のそばは植物も多く、そこに少しだけチガヤがありました。白い穂が出ているので、素人でも見つけやすく、一度、教えてもらうと、あとは参加者も自力でチガヤを見つけることができました。

鳥の声から鳥の種類を教えていただいたり、木の葉から木の種類を教えてもらったりしながら、みんなで楽しく散策を続けました。その後、宅地開発地帯に入ると、チガヤの群生を発見。このころになると、みんなすぐにチガヤを見つけられるようになり、立派なチガヤハンターとなりました。

15まこも1 水田にカルガモが泳いでいました。

【北澤さんから教えていただいたこと】
キジの鳴き声:オスのキジがメスを探すために鳴いている。
ハルジオン:宅地予定地の空き地に咲いていた。荒れた状態の土地でも、先駆的に生え始める植物である。
ある空き地に、ススキ、オギ、ヨシが生えていた。ヨシがあることから、以前は水辺に近い場所であることが推測できるとのこと。
俳優の屋号にもなっている「おもだか」も発見。これは、水辺の植物。
観察できた鳥(声のみの鳥も含む):キジバト、ムクドリ、キジ、カルガモ。

お天気もよく、あちこちよく歩き回り15:20に自主勉強会を終了しました。チガヤの見分け方はだいたいわかったので、今後は、藤浪小道具のメンバーで倉庫の近くで、安定してチガヤを収穫できる場所を探すことになりました。自然環境の専門家である北澤さんがいろいろ解説してくださったおかげで、藤浪小道具の方達にとっても、道具の素材になる植物について一歩踏み込んで考える機会となったようです。

北澤哲弥さん
株式会社エコロジーパス取締役。江戸川大学非常勤講師。博士[環境学]。専門は植物生態学。
「私たちは生物多様性の保全を専門とするコンサルティング会社です。近年、CSRとして生物多様性の保全活動に取り組む企業が増えてきました。しかし、本当に地域に貢献する活動にするためには、多くのハードルがあります。私たちは、企業が事業所や工場の敷地、その周辺の森川海などでおこなう生物多様性保全活動をサポートすることで、持続可能な社会の実現を目指しています」
*「百姓蓑」の復元には、ボランティアとしてご参加いただいています。

株式会社エコロジーパス http://ecopath.co.jp/