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歌舞伎のかつらの髪を結い上げる職人のことを「床山(とこやま)」と呼びます。歌舞伎の床山会社は、東京と関西にありますが、東京では「立役(たちやく)」と「女方(おんながた)」に分かれてそれぞれ専業で仕事をしています(一部、例外もあります)。
光峯床山は、東京に拠点をもつ女方専門の床山会社です。その会社を束ねる親方の高橋敏夫さんの仕事道具を中川未子さんにイラストにしていただきました(上のイラスト)。
女方の床山がかつらを結うときに使う道具
結いぼうず:これにかつらをのせて仕事をします。職人それぞれに自分専用の結いぼうずを持ちます。座布団に正座して仕事をしますが、結いぼうずの高さが合っていないと仕事がしにくいそうです。ですから他人の結いぼうずは使いづらいとのこと。この結いぼうずを作ってくれる人も減ってきているとか。
ひっかけ:かつらと結いぼうずを固定するための道具。床山が自分で手作りします。片方をかつらにひっかけて、結いぼうずの枝にひもをぐるぐるっと回して留めます。いちいち紐を結ぶのが面倒なので、50円玉や5円玉などを重りにして、ぐるぐる巻いて留める方式にしているとのこと。
元結(もっとい):髪を結わえるための紙製の紐。こよりに似ています。白い元結と、ろうびきして黒くした元結があり、用途に合わせて使い分けています。
水油:一般の世界でいうと椿油です。かつらの髪を結い上げる前にまずこの水油を使います。髪のクセを直したりコンディションを整えたりします。また、結った後に髪の表面に艶を持たせる目的で使ったりもします。
すき油:菜の花から作られた油で、最もよく用いるのがこの油です。これは水油よりやや固めの油で、結った髪の形が割れたり毛が逆立ったりした部分を直すために用います。ちなみに、髷(まげ)の部分の整髪などには、さらに固さのある「中煉(ちゅうねり)」という油を使います。
かもじ:かつらを結い上げていく上で、ちょっと髪のボリュームを足すときなどに使います。
コテと電熱器:髪のクセなどを直すときなどに使います。実は、和裁用のアイロン。新しいものでは使いづらいそうで、骨董市でわざと古いものを買ったりしているそうです。電熱器で温めて、そのまま髪に当てたり、びんだらいの水に入れた布を巻き付けて「ジュ〜」と蒸気を出しながら髪に当てるなど目的に応じて使っています。昔は電熱器ではなく、炭を使っていたそうです。
●中川未子(Nakagawa Hideko)
長崎県佐世保市出身、1966 年生。金沢美術工芸大学産業美術学部商業デザイン課卒業、(株)GK Graphics、(株)GK京都を経てフリーランスデザイナーとなる。平成11(2000)年頃から、民俗技術の工程をイラストで図解し、それを印刷物にまとめる仕事に関わる。京都在住。
問い合わせ先:yorozu-dh@star.odn.ne.jp
床山の親方の高橋敏夫さんから櫛の使い方を教えてもらっている中川未子さん(2012/1/19 撮影:田村民子)