アセチと本ベッコウ
天然素材のベッコウ(鼈甲)のかわりの素材として、
かつてはセルロイドも使われていたそうです。
しかし、燃えやすいなどの特性から、現在はアセチロイドが使われるようになったようです。
私たちがぱっと思いつくのはアクリルという素材ですが、
床山の高橋敏夫さんにうかがったところ、アクリル製の櫛やかんざしでは以下のような
問題があるそうです。
・アクリル製のかんざしは、すぐにボキッと折れてしまう。
・アクリル製の櫛は、小さな振動で抜けてしまう。
(つまり、髪から落ちてしまう。これは困ります)
また、歌舞伎のかんざし職人としてアセチロイドの加工にトライしている八田春海さんによると
櫛の形を作るのはなんとかできそうだけれど、櫛の歯を引くのがかなり難しそうとのこと。
八田さんはかなり器用に櫛を作っていましたが、歯の部分だけは私の目から見ても
見本の櫛の歯とはほど遠いものでした。
・ベッコウに代わる素材として、アセチロイドが本当に最適なのか?
・もっとベッコウに近い風合いのアセチロイドはできないか?
・アセチロイドの櫛の歯は、どうやって引いているのか?
などを知りたいと考えて、アセチロイドを作っている製造メーカーに直接
お話を聞きに行こうということになりました。
2011年4月8日。
床山の高橋さん、八田さんの3人で台東区にある会社を訪ねました。
歌舞伎の舞台で使っているアセチロイドのかんざしや櫛も持参して、
会社の方に見ていただきました。
私たちには同じ素材に見えるものも、会社の方は、「あ、これはセルロイド、これはアクリル」と
すぐに見分けられていました。
アセチロイドは、こしのある素材であることや、
特注で頼むとしたら1ロット30kgくらいからであること、
そして、櫛の歯は作業する方が企業秘密にされていて見せてもらえないことなどを
教えていただきました。
その後、その会社から実際にアセチロイドの櫛やかんざしを制作している工房を
紹介してもらい、3人で訪問。作業工程など、細かな部分を知ることができ収穫が大きかったのですが
櫛の歯を引く作業は、その工房も外注しているとのこと。
そして、やはり歯を引く作業は企業秘密で見せてもらったことがないとのことでした。
おそらく関東エリアでは、歯を引く作業をしているのは、その職人さんだけなのだと思います。
その方が、高齢か、採算性の問題で、もうあまり作業をされなくなってきている。
後継者もいない。だから、アセチロイドの櫛が作れなくなってきているのです。
どんな工具で櫛の歯を引いているのかも、わからない。
それを教えてもらうことも、できない・・・。弱りました。
高橋さんと八田さんと3人で、いろいろ話して、
旧来の手法にしがみつかずに、自分たちなりに新しい方法で
アセチロイドの櫛の歯を引く方法を作り出そうということになりました。