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田村日記

(15) 2018年 春夏の巻

17/01/06 UP

● 2018年9月22日(土)

【小道具さんの手ぬぐい】

歌舞伎の小道具でおなじみの「藤浪小道具」さんオリジナルの手ぬぐいをいただきました。
格子柄だったので「なんていう名前の格子?」とたずねたら「藤浪格子」とのこと。なんと、この手ぬぐいのために誕生! よーく見ると。ふ、じ、という文字と、七本(な)と三筋(み)の格子。その他に、扇や花魁の三ツ歯下駄、天目茶碗の図案がちりばめられています。製作は歌舞伎の衣裳製作でもおなじみの「石山染交」さん。注染染めという技法で丁寧に作られています。
私もふだんから和てぬぐいをよく使っています。ふつうのハンカチよりも、水分をよく吸います。最近では、いろんな柄の和てぬぐいがあちこちで売られているので、ついつい買ってしまいます。
それから、お化粧のときにもちょっと汚れをぬぐうのに使ったりもしています。ふつうの長さだと、大きいので、四等分にして。小道具さんの手ぬぐいを見ていたら、道具ラボでもオリジナルのものが作ってみたくなりました。いつか、できるといいな。

● 2018年7月16日(月)

【西日本豪雨】

今月6日の夕方、広島の実家の両親から連絡がありました。「雨がすごいので、今夜は避難所へ行く」と。4年前にも、広島市では豪雨による土砂災害の被害がありましたが、親の口調ではそれ以上のようでした。遠く離れて暮らしていると、こういうとき、本当になにもできずおろおろとしてしまいます。

なんとか我が家は無事でしたが、メディアなどでの報道の通り、4年前よりも広範囲で重大な被害がもたらされてしまいました。知っている地名ばかりがでてきますので、テレビの映像から目を離すことができませんでした。本当に自然の力というものは、計り知れないものだということを痛感しました。
あらためまして、西日本豪雨により被災されたみなさまに、心よりお見舞い申し上げます。猛暑が続くなか、被災地で懸命な救助を行ない、尽力しておられる多くの人々に深く敬意を表します。

阪神大震災のときには、私もまだ20代で会社の同僚が被災したこともあり、1週間後に仲間達と被災地へ支援に行きました。あの1日の出来事は、今でもくっきりと覚えています。傾いた電信柱やビル。倒れたブロック塀に阻まれて、何度も迂回をしながら目的地に向かったこと・・・・。私たちのつたない支援が役に立ったかどうかは、わかりませんが、私自身にとっても重い一日となりました。

あれから二十数年が経ち、あのときと同じような行動は今はできませんが、長期の視点で、「芸能の道具支援」に携わっている者として、自分にできることを考えながら、この西日本豪雨の被災地になにかお役に立ちたいと思っています。すぐに具体的な支援ができないのがはがゆいですが、遠くからずっと考えていきたいと思っています。被災されたみなさんは、いろいろご不自由が多いかと思いますが、お体に気をつけて過ごしていただきたいと思います。「希望」を持つ、ということがむずかしい方もいらっしゃるかもしれませんが、さまざまなものを含んで吞んだ上で、希望を持っていただきたいと思います。
まずは、被災地のみなさんが、普通の日常に早く戻れることをお祈りしています。

8月3日には、東京文化財研究所にて「伝統の音を支える技」という公開講座にスピーカーとして参加します。被災地にはさまざまな芸能があり、また和楽器を作る地域もあると思います。ずいぶん遠回りにはなるかと思いますが、そうした地域や職人さんへの支援のためにも、まずはこの公開講座でしっかりお話をしてきたいと思います。

● 2018年4月20日(金)

【社会に開くこと】

「日本の伝統文化のなかに生きる動物たち」(東京・多摩動物公園)の親子ワークショップの様子

ふと気付づけば、もう4月も終盤。今年の東京の冬は、ことのほか寒さが厳しかったのですが、道具ラボの活動でやることがたくさんあり、ブルブルと震えながらも、あっという間に時間が過ぎていきました。
3月の多摩動物公園でのイベント。多摩動物公園さん、そして日本自然保護協会さんという大きな団体と一緒に三者の共催という形で行いました。道具ラボはなにしろ、このように小さな所帯です。共催を行う際の手続きや、環境省などから後援をもらう手続きなど、日本自然保護協会さんに、あれこれと教えてもらいながらという感じでした。このあたりは、運営面、組織力の弱さを痛感しました。
親子ワークショップや郷土芸能の鹿踊(ししおどり)のみなさんのパフォーマンス、そしてシンポジウムと、一日中いろんなメニューがあり、当日は文字通り走り回っていました。なんとか無事に終了してほっとしました。

多摩動物公園でのイベントの様子はこちら
2018年3月18日 「日本の伝統文化のなかに生きる動物たち」(東京・多摩動物公園)
http://www.dogulab.com/activity/g-1/20180318tama.html

このイベントは、能の道具の「羽団扇(はうちわ)」の材料となる羽根を確保する活動の一環として行いました。道具ラボだけでは、歯の立たないちょっと難しい案件なのですが、環境保全活動を長年行っている日本自然保護協会さんとつながったことで、大きく動きはじめました。そのきっかけは、日本自然保護協会さんがツイッターで、イヌワシ保全のためのクラウドファンディングをされていて、そこに田村が支援をしたことです。アンテナをはっておけば、なにかつながりができる機会があるものです。

伝統芸能の道具については、調査や研究は進んでいますが、保全活動がまだ弱い。社会に開き、つながりながら、楽しく保全活動ができればと思います。

● 2018年4月18日(水)

【アイデア抜群のカレンダー】

堀場製作所という分析・計測機器メーカーのカレンダーを見せてもらったのですが、すごかったです。毎日1枚の美しい櫛の写真。つまり365枚の櫛。
年によってテーマがあるらしく、とんぼばっかりの年も。大判のカレンダーなので迫力ありました。
ツイッターで「すごい」とつぶやいていたら、堀場製作所さんから連絡いただきました。在庫があると言われたので、1本購入。「弊社は一般の方が目にされる製品がほとんどないので、カレンダーが見ていただけ、弊社を知っていただけることはとても嬉しいです」とのメッセージをもらいました。いい広報ですよね。
以下のサイトでバックナンバー(?)が見られます。これがまた、すごいんです。
http://www.horiba.com/jp/about-horiba/horiba-library/horiba-calendar/

● 2018年1月15日(月)

【歌舞伎のツケ】

今月の歌舞伎座にて上演されている『寺子屋』。そのツケは、「ツケ打ち」の芝田正利さん(通称:こしばさん)が担当されています。役者の演技と拮抗するような鋭いツケ。合わせにいくのでなく、きちんと攻める、すばらしいツケです。
いいタイミングがあったので、こしばさんとおしゃべりをしました。『寺子屋』では、子どもの首を討つという場面があります。役者が演じるのではなく、部屋の奥で行われているという設定で、討ったということをツケの音で、お客に知らせます。こしばさんは「このツケを打つのが、つらい、打ちたくない」と言われます。親の松王丸の気持ちになると、本当につらいと。ああ、こういう気持ちでツケを打っているから、こしばさんのツケは心にぐっと迫ってくるのだなと思いました。

こしばさんは、自分のツケ板を自分で手入れしていて、その作業の手を動かしながら、お話をしてくれました。芝居にのめりこむような姿勢とまなざしで、舞台脇に座るこしばさん。もっと、お話をきいておかねばと思いました。年齢も高くなってきています。みなさんにも、こしばさんのツケをたくさん聴いておいてほしいと思います。

以下は、以前、田村がこしばさんを取材した記事です。

http://www.kabuki-bito.jp/special/tepco/44/index.html

● 2018年1月3日(水)

【お正月の鷹】

浜離宮恩賜庭園(東京都中央区)で毎年行われている鷹匠さんによる「放鷹術(ほうようじゅつ)の実演」を拝見しました。屋外にて約1時間の実演なのですが、プログラムに工夫が凝らされていて、鷹匠の技がどのようなものかよくわかり、とても楽しめました。
鷹匠さんが鷹を据えるときに使う「大緒」と呼ばれる組紐があります。このお正月の実演でも、たくさん見ることができましたが、2013年に鷹匠の大塚紀子さんと出会い、この大緒を復元するお手伝いをしました。あのとき作った大緒もよく使ってくださっているそうです。うれしいですね。

大緒の復元については、以下をご覧ください。
http://www.dogulab.com/activity/a-1/1-8.html

鷹匠さんとのこうした交流については、樋野晶子さんが大事な役割を果たしてくださっています。改めて、感謝申し上げます。

浜離宮恩賜庭園のお正月の放鷹術については、以下のサイトで開催時間などの概要を知ることができます。毎年、だいたい同じようなスケジュールだと思います。入園料300円を払うと、無料で見られます。
https://www.tokyo-park.or.jp/special/shogatsu/hamarikyu.html

● 2018年1月1日(月)

【多分野との連携を実践する年に】

あけましておめでとうございます。
「伝統芸能の道具ラボ」は、伝統芸能の道具の価値を再認識し、その魅力を社会に発信しながら、継承と発展に具体的に貢献することを目的として2009年に発足しました。
まだまだ小粒な活動ではありますが、新聞での発信などを通じて少しずつ「道具」への関心も高まってきているように感じます。これまでは田村が取材活動で関わってきた歌舞伎、能楽の世界の道具を主に扱ってきましたが、もう少し範囲を広げて、郷土芸能などにもフィールドを広げていきたいと思っています。
活動を行っていくなかで、ちょっと気になるのが「伝統」という言葉がはらむ危うさです。このあたりにもしっかり意識を向けていきたいと感じています。
さて、今年は春にひとつ大きなイベントを行います。環境保全の人達とディスカッションを重ね、新たな取り組みにチャレンジしています。また具体的にお知らせできる時期になりましたら、ぜひみなさんにもお伝えしたいと思います。それから、未知数な部分が多いのですが、「伝統芸能の道具」を支援するための新たなプロジェクトが進行中です。なんとか実現させて、みなさまにも報告できればと思っています。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。

2018年1月1日
伝統芸能の道具ラボ 代表 田村民子

*写真は、能の「作り物」を製作している竹の職人さんからいただいたお正月用の「青竹祝箸」。