201403boso
2014年3月。藤浪小道具の近藤真理子さん、植物の専門家の北澤哲弥さんと道具ラボの田村民子の3人で、「千葉県立 房総のむら」(千葉県印旛郡栄町龍角寺1028)へうかがいました。近藤さんと北澤さんは、この日が初顔合わせです。JR成田駅から房総のむらまでは、バスで向かったのですがその車中で、それぞれ自己紹介をしていただきました。バスの一番後ろの席に陣取って「なんだか、不良みたいだね〜」とみんなで笑い合いました。北澤さんも、歌舞伎の小道具というお仕事に興味津々で、あれこれとみんなで質問を投げかけながらの楽しい道中でした。
房総のむらへは、13:30ごろに到着。房総のむらでは、藤崎芳樹さんにご対応いただきました。到着してみて気づいたのですが、北澤さんと藤崎さんは、なんとお知り合いでした。
このページのタイトル写真は、訪問したときに田村が撮影したものです。右から北澤さん、藤崎さん、近藤さん、一番左は蓑の作り方をマスターしている後藤容子さんです。
房総のむらでは、蓑の作り方を地元の年輩の女性から習って、継承しているとのこと。そして毎年3月ごろに一般の人を対象とした蓑づくりの実演講習会を開いているそうです。近藤さんが状態のよい「百姓蓑」を持参していたので、まずは房総のむらで作っている蓑を見せていただき比較してみようということになりました。すると、なんという幸運でしょうか、百姓蓑とほぼ同じ形ではありませんか! 「まるで双子みたい!」と、近藤さん。ホールインワンのようです。こんなにうまくいくとは思っていなかったので、本当に驚きました。北澤さんのたぐりよせた糸がドンピシャだったわけです。
興奮しながらも、藤崎さんにいろいろ質問をしてみました。
・房総のむらで作っている蓑の素材は「チガヤ」
・藤崎さんからいただいた蓑の資料によると、チガヤで作る蓑は、一般の製作方法とやや異なり、古い方法を伝えている、とのこと。
・チガヤは7月ごろに刈り取る(8月ごろだと固くなるとのこと)。刈り取った後にすぐに葉の芯をとる作業をしないといけない。専用の道具を使って、手作業で芯をとっていく。乾燥したり時間がたつと、芯をとる作業は難しくなる。
芯をとる作業がどんな感じなのかを少しだけ実演していただきました。
というわけで、「百姓蓑」の素材はチガヤでした! 素材はわかりましたし、作り方もどうやらここに伝承されている。となると、気になるのは色です。歌舞伎の小道具としては、赤みがかった色であることがとても重要。そこで、色についてもうかがってみました。
・蓑の色が赤いのは、日焼けによるものではないか。
・赤い色の蓑が欲しいなら、外に干すなどをしてみてはどうか?
「赤みがかった蓑」の作り方について、北澤さんがその後、いろいろ調べてくださいました。
房総のむらの所蔵の「外に展示して日焼けした5~6年物の蓑」を見ると、日焼けで赤くなるというより白く色が抜けている。他の博物館関係者から聞いた話では、チガヤの葉が紅葉する秋(枯れる前)に葉を採集すると赤い蓑ができるという。藤崎さん達に確認したところ、確かにそのような話は聞いたことがあるとのこと。初夏にチガヤを刈って日焼けさせて蓑を作る手法とともに、秋に紅葉した葉からつくる手法も併用させた方が、赤蓑再生の可能性が高まるのではないか。
思いがけず、同じ形の蓑があり、作り方も伝承されていたので、歌舞伎の小道具の人たちに作り方を教えていただくことができないか、藤崎さんにご相談してみました。少し調整も必要だけど、そのようにできるよう進めてみますというありがたいお返事をいただきました。
そんなこんなで、収穫の大きな一日となりました。余談になりますが、房総のむらは、とにかく広大でなかなかおもしろい博物館でした。時代劇などの撮影も行われているようで、少し探検もしました。また、隣接する「ドラムの里」というエリアには、気持ちのよいカフェもあり、地元農家の野菜や加工品などを売る直売所もありました。3人でカフェでお茶をし、帰りの道中も「本当に、びっくりしたねー」を何度も繰り返しました。都心からはちょっと遠い場所でしたが、大きな収穫がありみんなニコニコ笑顔で解散しました。
「房総のむら」
房総のむら Webサイト http://www.chiba-muse.or.jp/MURA/
北澤哲弥さん
株式会社エコロジーパス取締役。江戸川大学非常勤講師。博士[環境学]。専門は植物生態学。
「私たちは生物多様性の保全を専門とするコンサルティング会社です。近年、CSRとして生物多様性の保全活動に取り組む企業が増えてきました。しかし、本当に地域に貢献する活動にするためには、多くのハードルがあります。私たちは、企業が事業所や工場の敷地、その周辺の森川海などでおこなう生物多様性保全活動をサポートすることで、持続可能な社会の実現を目指しています」
*「百姓蓑」の復元には、ボランティアとしてご参加いただいています。
株式会社エコロジーパス http://ecopath.co.jp/