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田村日記

(4) 2014年 春の巻

14/01/01 UP

● 2014年3月20日(木)午後9時の書斎の温度17度

【杉本文楽「曾根崎心中」】
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よきご縁をいただいて「杉本文楽 曾根崎心中」のゲネプロを拝見してきました。2013年秋に、マドリード、ローマ、パリで上演されたものの凱旋公演。杉本文楽についてはテレビのドキュメンタリーなどで見てはいましたが、舞台は実際に自分の目で見て、肌で感じないとよしあしがわかりません。文楽というものが、どう演出され、どんな風に見えるのか、とても興味がありました。

写真

私事ですが、5月に高校生に向けて歌舞伎の解説をする、というお題を抱えているので「高校生がこの舞台をみたら、楽しめるだろうか?」という視点で拝見してみました。2時間半の全ての時間をぐいぐい惹きつけることは難しいかもしれませんが、これなら高校生も楽しめるのではないかなと感じました。
この公演は「プロローグ」「観音廻り」「生玉社の段」「天満屋の段」「道行」で構成されています。「プロローグ」「観音廻り」は、一般公演の文楽とぐっと雰囲気が異なります。「プロローグ」は、鶴澤清治さんお一人による太棹の三味線の演奏。真っ暗な中、スポットライトが当たり、その音色を集中して聴くことができます。全体を通して言えることですが、照明が効果的に使われていました。観客の視線を照明が上手にリードしているというか。ほとんどの場面で、人形よりも床のほうが明るかったのも、文楽的でよかったです。文楽は聴くものですもんね。

「観音廻り」では桐竹勘十郎さんがお初を「一人遣い」で操ります。普段は三人ですが、一人。文楽では大道具の構造上、いつもは舞台を左右に動きますが、今回はいわゆる古典の大道具が出ないため空間が自由で、舞台奥から前へと登場してきます。このあたりも文楽を見慣れている人にとっては、新鮮です。「観音廻り」は現代美術作家の束芋(たばいも)の映像作品(アニメーション)が背景に大きく映し出されるのですが、これがいい世界を作り上げていました。じっと目が離せないような、吸い込むような力がある映像。それから舞台から遠い席では、人形の顔は小さくて見えないのですが、人形のアップがスクリーンにちらっと映し出されていたのもいいなと思いました。やはり、お初の顔は見たいですもんね。視覚的にぐいぐいひっぱるような流れがあって、集中して見ることができました。

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「生玉社の段」からは、三人遣いとなり、前半に比べると「いつもの」感じに近い雰囲気です。冒頭に「東西〜」もありました。そして、義太夫はいつもの通り。古典と大きく違っているのは大道具と照明です。象徴的なアイテムを大道具として舞台に出していて、これはこれでおもしろかったのですが、大道具好きの私としては、古典の大道具がちょっと恋しくなりました。古典の大道具はなんでもなさそうに見えるのですが、いざそれがない状態で見ると、大道具がいかに情景を語るものであるか、視覚を楽しませてくれていたのかがよくわかりました。古典の大道具のほうが要素としてはたくさんあるのですが、抽象的にした道具よりも、物語に入りやすいと私は感じました。これはおもしろい発見でした。私はちょっと偏った眼なので、一般の方はどう感じるかはわかりませんが(笑)。

それから、最後にカーテンコールがあるのですが、これは純粋にうれしいですね。演者、演奏者の方などの、素のお顔と表情が拝見できると、親近感も涌きますしなにより一体感があります。ゲネプロのカーテンコールなので、一般公演のものとはかなり雰囲気が異なりますが(なにしろ人が少ない)、それでも楽しい雰囲気に包まれました。一般公演だと熱い空気になるでしょうねー。やはりちゃんとしたお客で行かないとダメですね。
伝統芸能をされている方(ちょっとざっくりした言い方ですが)は、なんとなく私たちのような一般人からすると遠い存在です。一般とは全く違った価値観をもっておられる部分もあると思いますし、そういう意味で「よくわからない人たち」に見えてしまうところもあります。そこが伝統芸能がとっつきにくい原因のひとつでもあると思うのです。伝統芸能の人も、ちゃんと(?)外部の人とコミュニケーションしながら新しいものに取り組んでいるんだっ!ていうことを一般の人に伝えることも大事かなと思います。そして、それを公演に関わった内部の人たちだけで認識するのではなく、現代の一般客にアピールするというパフォーマンスとしても、カーテンコールはよかったです。

歌舞伎も外部の作家や演出家による新作品が作られますが、その演出家が歌舞伎のどこを削って、なにを残すか、人によって異なります。杉本博司さんは、文楽を大事に扱っておられるなと感じました。古い因習が多い伝統芸能ですので、新しい取り組みをするには大きなエネルギーが必要だと思いますが(伝統芸能の中の人も外の人も)、おもしろいものをたくさん生み出して、今の若者を惹きつけるような舞台をたくさん作っていただきたいなと思いました。そして、私はそういピチピチした伝統芸能を道具という視点で応援していきたいです。

杉本文楽
【東京公演】
2014年3月20日(木)、21日(金)、22日(土)、23日(日)
http://sugimoto-bunraku.com/

4月には歌舞伎座で、『曾根崎心中』が上演されます。
http://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/2014/04/post_74.html

● 2014年3月9日(日)午後10時の書斎の温度18度

【国立新美術館 企画展「イメージの力」】
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今日は久しぶりに国立新美術館へ行ってきました。今は、「イメージの力」という企画展が開催されています。この展覧会は乱暴に言うと、大阪の国立民族学博物館(通称「みんぱく」)の膨大な所蔵品の一部を東京・六本木の国立新美術館で展示する、という感じです。みんぱくには以前に行ったことがあるのですが、あまりの広さと展示物の圧倒的な迫力にとても興奮したことを今でもくっきり覚えています。ですから、その一部を運んできても、それほど面白いものにはならないだろうと思っていて、実はあまり期待はしていませんでした(この予想、かなり覆されました!)。

国立民族学博物館
http://www.minpaku.ac.jp/

ある組織に伝統芸能が好きな方が集う愛好会があるのですが、ひょんなことから参加させてもらうようになりました。ふだんは歌舞伎や舞台芸術などをみんなで鑑賞しているのですが、今回は「イメージの力」の展覧会をみんなでみようという企画のようでした。会の人にも会いたいということもあり、私も参加してみることにしたという次第です。かなり受け身ですね(笑)。
展示を見る前に、展覧会に関わった学芸員さんによる解説がありました(これは愛好会の特別メニューです)。博物館と美術館がコラボする意義についても、お話されてとても興味深かったです。同じものでも、博物館で見るのと、美術館で見るのでは、異なるのか? ということは、これまで考えたことがありませんでした。「美術館でものをみるとは、どういうことか?」を美術館側もいろいろ考えられたようです。事前にこうした企画側の意図や想いを聞けることは、とても貴重だと感じました。これは、伝統芸能を伝えていく上でも、参考になります。

それで展示のほうですが、みんぱくの展示とは異なる魅力がありました。「目に見えないもの」つまり神様やそれに類するものを集めたゾーンや、背の高いものを集めたゾーンなどそれぞれテーマがあり、分類のやりかたもユニークでした。詳しくは、以下のWebサイトの「各章の内容について」に詳しく書かれています。

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国立新美術館
「イメージの力」2014/2/19-6/9
http://www.nact.jp/exhibition_special/2013/power_of_images/index.html

世界各地域の文化が凝縮された「もの」が集まっているので、展示物のひとつひとつにとにかく力がありました。まともに全部を見ていると、エネルギー負けします。大きなおもちゃのような車やビール瓶が展示されている部屋があるのですが、それはなんとガーナの棺桶でした。とてもカラフルで楽しげで、日本人にはとうていこんな棺桶をつくることは考えられないと思いました。ミャオ族の衣裳もすごく凝っていて見応えがありましたし、今、道具ラボで復元しようとしている道具の素材に近いものもあり、触ってみたいなーという欲求を抑えるのが大変でした(触ったら、怒られますからね)。和歌山県の「扇神輿」もユニークだったし、アイヌの祭壇「ヌサ」も不思議な魅力がありました。人間って、おもしろいなーと改めて感じました。

それぞれのゾーンでは、なんとなく展示物が発する「におい」があって、それもおもしろかったです(比喩ではなく、本当になにか匂っているのです)。開催期間中にもう一度くらい見に行きたいと思っています。展覧会のタイトル「イメージの力」から受ける印象よりも、実際に行ってみたほうがおもしろいので、ちょっともったいないなという気もしました。歌舞伎でも、全く内容を知らない人は『ぢいさん ばあさん』という演目名をきくと、あんまり興味をひかないと思うのですが、実際のお芝居はすごくいいのです。内容がいいのに、タイトルがちょっと微妙で、損をしているというパターン、たまにありますよね。

今日は、展覧会に関連したイベントもありました。「カフェアオキ」というタイトルで、アオキとは国立新美術館の館長である青木保氏のこと。出演者は中村英樹氏(美術評論家)、山梨俊夫氏(国立国際美術館長)、青木保氏の3名。面白い発言がたくさんあったのですが、特に印象に残っているのは、中村氏の「(絵画などで)パワーが出ているものは、画面構成などが緻密に設計されていて、かつそれを気付かせないようにしているもの」というような内容の発言でした。これは、歌舞伎の裏方さんのお仕事に通じるものがあるなと思いました。それから山梨氏の「ものは、それが存在する場所によって見え方が変わってくる」という言葉。そして、最後に青木氏がアメリカの自然史博物館にはネイティブアメリカンが祈りのために使っていた道具などが展示されていることを引き合いに出して、ある人たちにとっては重要な「祈りの対象」を、「展示物」として扱うことをどう考えるか、ということについても話されていました。これは、仏像を博物館で展示するということやエジプトのミイラを日本で展示する、ということにも重なる部分であり、私自身も気にかかっている視点です。さらに考えると、伝統芸能の道具を展示する、という機会があったとしたら、それをどう考え、捉えるか。など。

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それから、「イベントのやり方」という視点でも、今日のイベントはとても勉強になりました。カフェアオキは、入場無料のうえ、ドリンクサービスもありました(コーヒー、紅茶、オレンジジュースから選べる)。事前申し込みも不要ですし、場所もきれい。先着210名ということになっていましたが、かなりの人数が集まっていました。15:00-16:30という時間設定もよくて、展覧会を見た後にこのイベントに来てもいいし、イベントを聞いた後に展覧会を見ることもできます。私は、展覧会を見た後にイベントに参加しましたが、もう一度見たくなって、再入場しました(再入場するためには、退場するときに日付のハンコを押してもらう必要がありますので、退出時にその旨を申し出ないといけません)。それから、司会者というか進行役がとても重要だなと改めて感じました。特にシリーズもののイベントの場合は、いい司会者がいるとゲストに関係なく、お客さんは司会者を信頼して継続してやってくるような気がします。カフェアオキは、すごくいいシリーズ・イベントだと思いました。

余談ですが、地下1階のお土産売り場はなかなかいいラインナップです! 国立新美術館にはカフェも複数ありますし、あちこちにゆったり座れる椅子がたくさんおかれています。なにしろ広い空間なのので人が混み合うという感じがしないのがいいですね。以上、長くなりましたが「イメージの力」展の感想でした!

● 2014年2月2日(日)午後1時の書斎の温度18度

【中川李枝子さんと宮崎駿さんの対談】
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絵本『ぐりとぐら』が1963年に月刊絵本『こどものとも』から誕生して50周年だそうです。それを記念して、作者の中川李枝子さん(78歳)と宮崎駿さん(73歳)の対談があったので拝聴してきました。テーマは「今を生きる子どもと親に伝えたいこと」。
中川李枝子さんは、宮崎監督の映画「となりのトトロ」の楽曲「さんぽ」の作詞を担当されていて、これまで親交を重ねてこられたようです。中川さんは、ぐいぐいと持論をお話され、本当に迫力がありました。あふれる想いがよどみなく出てくる感じ。宮崎駿さんも本音トークで、テレビなどとは異なる生の講演のおもしろさをたくさん吸収できました。講演を聴きながらノートに書き留めた言葉を何度も読み返しています。(生でお話を聴く講演会はおすすめです。みなさんも、気になる方がいたら、ぜひ講演に足を運んでみてください)。

宮崎駿さんは、中川さんの童話『いやいやえん』をとても髙く評価されていました。学生時代に児童文学に興味をもっていたときにこの本に出会って、衝撃を受けたそうです。約1時間半の対談でしたが、濃密な内容で、脳がクラクラするくらい刺激をうけました。以下、印象に残った言葉を書き連ねてみます。

中川李枝子さんの言葉
・作家を生かすも殺すも編集者次第。
・本を出した後に名編集者から「(いろんな依頼がこれから来ると思うけど)断らないと、あなたがダメになるわよ」と言われた。(このアドバイスを受けて、中川さんは「母の友」だけに絞ったそうです。英断!)
・子どもの喜びに敏感なお母さんというのがいい。
・最近の子どもは、おままごとをやりたがらない。そして、お母さん役をやりたがらない。
・『児童憲章』をもっと見直してほしい。

宮崎駿さんの言葉
・今、一番いいと思うことをやる。それでいい。何年続くだろうとか、そういうことは考えなくていい。そういうことで開けることもある。(この言葉、2回ほどおっしゃっていました)
・子どもはそう簡単に成長するものではない。それでいい。
・『いやいやえん』の絵(中川李枝子さんの妹さんが担当)には、邪念がない。自分たちプロは、手慣れてきてゴールの見えている線で描いてしまう。ゴールのわかっていない線に心ひかれる。

たくさん胸にささる言葉がありましたが、宮崎駿さんの「今、一番いいと思うことをやる。それでいい。何年続くだろうとか、そういうことは考えなくていい。」という言葉は特に、今の私には響きました。そして、中川李枝子さんの「作家を生かすも殺すも編集者次第」という言葉も、非常に納得でした。

写真は、講演の聴講者に配れたメモ帖です。久しぶりに『ぐりとぐら』を読みたくなりました。

● 2014年1月28日(火)午後10時の書斎の温度17度

【大道具さんを撮影して気付いたこと】
梅
歌舞伎座の大道具さんのホームページとFaceBookページの記事を書かせていただいています。一眼レフを片手に、撮影もしているのですが、今日ふっと気付いたことがあります。今のような公演準備期間中、つまり客席にお客様がいない状態の舞台で彼らが働いている様子を客席側から撮影したりしているのですが、なんとなくいつも後ろ姿が多いのです。これ、たぶん彼らのクセなのだと思います。

上演中に大道具さんが姿を現される際は、お客様に顔が見えないようにしています(これは意図的に)。そんな習慣が、身体に染みこんでいるのではないかと。考えすぎでしょうかねー。大道具でお客様の前に姿を現す際は、めがねは禁止なのだそうです。これはお能でも一緒ですね。私たち素人が舞台に立つときも、時計や指輪はもちろん、眼鏡も禁止です。大道具の話に戻ると、茶髪も禁止だそうです。そういえば、そうだなーと思いました。

写真は、近所の医院の先生宅の梅です。枝ぶりが見事。ゆっくり歩いて眺めると、角度によってどんどん姿が変わっておもしろいです。梅の木と対話している感じ。老木を愛でる、疎痩横斜(そそうおうしゃ)なんていう言葉もありますね。寒いのは苦手なので、早く春が来てほしいです。

大道具さんのFaceBookページ
https://www.facebook.com/kabukizabutai

● 2014年1月9日(木)午前11時の書斎の温度16度

【新しい年をむかえて】
おもち
2014年になってから、9日が過ぎました。1年前の自分の状況と比べてみると、ずいぶん変わったなと感じます。話が少しずれますが、私は1年間にあったトピックスを小さなバインダーファイルに書き込んでいます。見開き1ページで1年分。「いつごろ、引っ越したか」「いつごろに、どんな仕事をしたか」「だれと出会ったのは、いつだったか」すぐに忘れてしまうので、それを検索できるようにしたのです。これが自分史の目次みたいな感じで、なかなかたのしいです。

それで、去年のページをみると、いろんなことをやっているなーと我ながら感じます。去年の3月には、京都大学の学生さんが「小さな道具シンポジウム」(京都・法然院)を企画してくれて、京都へ出かけましたが、これは本当に楽しかったです。若くて魅力的な学生さんにたくさん出会えたことは、なによりの宝となりました。4月には歌舞伎座も再開場。私は思いがけないことから、歌舞伎座の大道具さんのところでたくさん仕事をさせていただくようになりました。これが一番大きな変化ともいえます。そして、秋の10月でトヨタ財団の研究助成プログラムが終了。2年間の研究成果を髙く評価いただいたことは、大きな自信になりました。一方で、研究するための資金の収入源がなくなり、運営面の弱さを痛感しました。

「道具ラボ」の活動をしていると、自分の人生の振り幅が大きくなって、楽しいこと、やりがいのあることもたくさん、苦しいこと、つらいこともたくさんという感じなのですが、人のご縁については、いいことばかりです。「道具ラボ」をやっていなかったら、出会えなかった人もたくさんいます。しんどくなったときは、出会った人のことを考えると希望がもてます。

今年は、「道具ラボの収入源を作り、資金面を立て直す」、「本をつくる」、「能楽の道具のプロジェクトを着地させる」という3つを実現させたいと思っています。今年もどうぞよろしくお願いいたします。