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田村日記

(3) 2013年 秋冬の巻

13/09/01 UP

● 2013年12月17日(火)午後8時の書斎の温度17度(さっきエアコンをつけました)

【雪駄でもはけるタイツ】
雪駄タイツ
手持ちのタイツを、雪駄でも履けるように改良してみました。以下に作り方をご紹介します。結構楽しいです!

雪駄タイツのつくりかた

● 2013年12月13日(金)午後8時の書斎の温度19度(オイルヒーターつけてます)

【「いろけ」という言葉】
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歌舞伎の裏方さんとお話をしていると、どの分野でも、よく「いろけ」という言葉がでてきます。それぞれの仕事や職種で、微妙に言葉の定義が違うようで、毎回、どういう意味合いでイロケという言葉を使っているのか、推測ワールドしています。つい先日は、大道具の経師(きょうじ)の担当者が「いろけ」という言葉を使っていました。中日(なかび)が近くなってくると翌月の演目の準備がはじまってきます。大道具という仕事は実に細分化されていて、造花担当とか布関係の担当とか、綱元とか、道具の転換だけでなくそういう専門分野をもっています。私が出入りさせていただいているのは歌舞伎座の大道具ですが、たまたまだそうですが、ツケ打ちと経師を兼ねている方が多いようです。

それで、経師の方が、翌月の演目の図面を見ながら、障子やふすまを貼ったりする部分がどのくらいあるかを確認しているのです。道具帳というものは、二次元で書かれてありますから、障子の絵があっても、そこが本物の障子なのか(開け閉めできる建具)、絵として書き割っているのか判断がつきません。それで、図面を見たりして、判断していくのです。障子にもいろんな種類があることがわかりました。そういう作業をそばで拝見しながら、あれこれと質問をしていきますが、とても丁寧に教えてくださいます。こういうときは、もうあつかましくじゃんじゃんきいていきます(笑)。

それで、どの場面でどんな障子が何枚くらいいるかを判断します。そして、「いろけ」の判断もしているようなのです。このときのいろけは、世話物の汚れた屋体にいれるものなのか、きれいなお屋敷にいれるものなのか、という意味合いのようです。つまり、同じ形でもきれいな障子なのか、ちょっと汚れた感じの障子なのか、ということです。図面をみていた経師の方が、「いろけがわかんないなー」と言われて、私「え? いろけですか?」、「そう、いろけ」。私「いろけって、なんですか?」という、会話をやりとりしました。現場の言葉はおもしろいですね。手触り感のある生きた言葉がいっぱいあって、魅力的です。私はまだまだ、そういう言葉をしゃべれていません。

写真は、文楽のカレンダーです。大道具でお世話になっている方からいただきました。とても細やかな気配りをされる方で、学ぶことがてんこもりです。とにかく、たくさん会話をして、こちらが勉強していかなければなりません。来年はまずは資金面を地道に立て直して、道具ラボの活動の運営をなんとかしたいと思っています。寒いのは苦手なのですが、冬場にしっかり考えたいです。

● 2013年11月16日(土)午前11時の書斎の温度15度

【報告書づくり】
ぎざ
2011年11月から2年間、トヨタ財団の研究助成プログラム(個人奨励)で助成をしてもらってきました。10月末でそれが終了したため、今、最終報告書を書いています。2年間、がむしゃらに動いてきましたが、それを書いてまとめるのは結構大変でした。私は本業がライターなので、書くことは一応得意ということになっていますが、それでもかなりのエネルギーを要しました。自分でやってきたことなので、内容はもちろんわかっているのですが、外部へ伝えるために文章を書くと、いろいろ整理されます。とても大切な作業となりました。

研究課題に対して論証を行っていく方法論には、ざっくりと質的調査と量的調査がありますが、私の場合は質的調査のほうに比重を置いています。私自身がライターでインタビューなどを専門としているから、おのずとそうなっていますが、量的調査も併用していかなくてはならないと感じています。今回の研究期間では、歌舞伎の櫛の復元など、目に見えるわかりやすい成果も結ぶことができたため、トヨタ財団さんからも高く評価をしていただきました。でも、衰退危機にある伝統芸能の道具を守る、という大きな課題は達成されていません。今のような復元のベースではとうてい間に合わないからです。個人の研究活動から、ある種の「運動」へ広げていかなければならないと感じています。

写真は、うちの猫です。書斎で私が、うんうん唸りながら報告書を書いていても、我関せずグーグー眠っています(寒さのため、アンモナイト化している)。いろんなことで、一喜一憂している人間とは異なり、いつもマイペースに生きる猫は、超越している存在だなーと思ったりします。

● 2013年11月9日(土)初冬の空気

【尺貫法とメートル法】
メジャー
大道具さんのところで働いていると、本当にいろんな発見があります。毎日が新鮮で楽しく、ちょっとした雑談も私にとっては勉強になることばかり。貴重な時間です。この前、ちょっと面白いなと思ったことがありました。長年、この世界で働いてこられた方が、なにやら苦戦されている様子。そして「うーん、センチとかミリとか、やっぱりわかんねー。ものすごい時間がかかるー」と、ぼやいておられます。いつもは尺とか寸の尺貫法で図面をつくっているのに、今回は外部との仕事なので、メートル法のようなのです。なんだか、おかしいやら、かわいらしいやらで吹き出してしまいました。

この前も、ある方が「ちょっとだけ建築関係の事務所で働いたことがあるけど、メートル法でびっくりした。尺貫法じゃないんだ」と(笑)。「電気屋さんとかで、家電を買うときとかは、全部サイズがメートル法ですけど、そういうのもわからないんですか?」とたずねてみたら、「そう、わかんない。だから、メートル法と尺貫法が一緒になっているメジャーを持ち歩いて、尺貫法に換算してる」とのこと! なんだか異国の方みたいですが、見方を変えれば、本来、日本人は尺貫法を使っていたから、逆といえば逆ですよね。私自身は、まだメートル法の世界の人なので、メートル法と尺貫法が両方ついているメジャーで、尺貫法を体になじませている最中です。この年齢からだと、無理でしょうかね・・・。

写真は、その兼用のメジャーです。大道具さんは、尺貫法(曲尺のほう)を使われるので私も尺貫法の巻尺を買いました。衣裳さんのところに行くときは、同じ尺貫法でも鯨尺のメジャーを持参します。ちょっと並べてみましたが、かなり違いますねー。上が曲尺、真ん中がメートル法、一番下が鯨尺です。

● 2013年10月31日(木)気持ちよい秋晴れ

【トヨタ財団 贈呈式の報告会にてお話をしてきました】
着物
今日はトヨタ財団研究助成の二年間の最終日でした。多くの方のご協力のおかげで高い成果が出せたと評価していだだき、今日はこれから助成を受けられる方の贈呈式で、少しお話をさせていただきました。
研究助成の代表として登壇したので、ものすごく緊張してしまいましたが、内容はうまく伝わったようで、懇親会などで沢山の方に声をかけていただきました。

研究成果については、選考委員長の桑子敏雄先生から「採択してよかった」と言っていただき、とてもうれしかったです。助成対象者は、名だたる大学の先生や研究機関に所属されている方が多いのですが、私は無所属ですので、プレッシャーもありました。いろいろ大変なことも多くありましたが、成果をあげて終了できたのは、多くの方のご協力や、応援のおかげがあったからこそです。ここに感謝してお礼を申し上げます。これからも、研究と支援を続けていきたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

写真は、贈呈式に着た着物です。白い帯にするか、黒い帯にするか迷いましたが、黒い帯にしました。母から譲り受けたものです。こうした研究活動を続けるには、家族の理解も必要です。家族にも感謝しています。

● 2013年10月19日(土)くもり 朝晩は寒くなってきた

【日本人の手】
歌舞伎座
大道具さんのところへうかがうと、舞台裏や奈落にさまざまな道具や屋体がひしめきあっているので、ついつい観察してしまいます。そして、謎がふつふつと涌いてくるので、折々に質問をしています。『かぶき手帖2013』の大道具特集のための取材で、いろいろ話をうかがいましたが、頭でわかっていても、実際にはわかっていないなーと感じることが本当に多いです。たとえば屋体の高さは決まりがあって、知識としては高足(たかあし)とか尺高(しゃくだか)とかがあるのは知っているのですが、実際のモノを見てぱっと判断できません。「これ、なにかわかります?」と逆質問されて、私「うーん、わかりませんー」。「これは高々(たかたか)ですよ」という風に。尺貫法のメジャーを買って、ひとりででも高さがわかるようにしたいなと思っています。

今日、お話していておもしろかったことがあります。舞台の転換を担当される方は、今は電気ドライバーがあるので随分楽になったそうですが、それが導入されるまでは、全て釘を手で打っていました。釘の長さもいろいろあって、それを混ぜこぜで袋に入れています。最初のうちは、いちいち釘を取り出して目で長さを確認していたので、とても時間がかかったそうです。先輩に「もう終わったよ」と言われることもしばしばだったとか。それが慣れてくると、袋に手をつっこんだだけで、すぐに釘の長さがわかるので、作業効率がうんとよくなる。人間の手の感覚と学習能力はすごいなと改めて感じました。そして日本人の手は、とくに繊細にいろいろなものを判断できるという話題にもなりました。

現場で働いておられる方と現場を歩き、いろいろ体験させていただくのは本当に勉強になります。そして、自分の知っていることは氷山の一角だなと痛感します。地道に自分の経験を増やすしかありません。そうそう、昨日から雪駄デビューしました。雪駄で働くって、足がきゅっと引き締まって、とっても気持ちいいです。それに、舞台に連れていっていただいた際も、雪駄と足袋ならどこでもうろうろできます(所作台や屋体の上などは、雪駄を脱いで足袋で歩きます)。こうした環境に身をおかせていただいていることに感謝しつつ、これからたくさんのことを吸収し、現場のお役に立てるように仕事をしていきたいと思っています。

写真は、たぶん10年前くらいに撮影した歌舞伎座の大道具の出入り口の写真です。ある仕事で昔撮影した写真を探していたときにひょっこり出てきたので、大道具さんにお見せしたらとても懐かしがっておられました。彼らは「裏木戸」と呼んでいたそうで、私はその木戸を憧れをもって見つめ、撮影していたのです。その当時は、その中の人たちと一緒にお話しながらこうして舞台裏をうろうろできるなんて、想像もしていませんでした。人生とは不思議なものです。

● 2013年10月15日(火)巨大台風接近の日

【芝居の世界のことば】
ろうそく
歌舞伎の裏方さんの会話を聞いていると、「ああ、芝居の世界の言葉だな〜」と思うことがよくあります。今日も、そんなシーンに出会いました。ある道具が歌舞伎座にも置いてあるということを言うとき「座にもある」という表現をされていました。以前、興行会社のなかで仕事をしていたときは、歌舞伎座や南座のことを「座館(ざかん)」という呼び方をしていました。一般では使わない、ちょっと特殊な言い方だなと感じていました(広辞苑にも掲載されていません)。そういえば、古い照明さんは、歌舞伎座にいるよ、ということを「小屋にいるから〜」と言われたりもしていました。ざらっとした質感のある言葉ですね。

それからおもしろかったのは、メールを同時に送信して行き違ったときに「メールが札の辻あたりで、すれ違ったようですね」と表現された方がいらして、なんとも洒落た言い回しをされるなーと感じました。なんでもない出来事を、楽しい会話にしてしまう。見習いたいことが沢山あります。ともかく、芝居の世界の人との会話は、とても面白く、勉強になります。

写真は、蜜蝋のろうそくです。一般の蝋燭と異なり、火が消えにくく、ススも少ないとのこと。歌舞伎の舞台でも使われているそうです。

● 2013年9月29日(日)気持ちのよい気候

【現場の空気を吸いながら】
雪駄
ふと気付けばもう9月も終わろうとしています。数週間前はあんなに暑かったのに、うんと過ごしやすくなり、朝は布団から出るのがつらくなってきました。日本という土地で生きることは、本当に季節とともに生きるということのなのだなと改めて感じます。

8月に「歌舞伎の櫛の復元」が一段落し、それから新聞取材やNHKの取材などが続き、バタバタしながら過ごしていました。また能の道具のほうの今後の段取りを思案したり、執筆関係が少し動いてきたりしたこともあり、考えることが山積しています。道具ラボの今後の戦略を幹事の池本さんと一緒に検討することにも時間をかけています。いろんなことが「動いている」と感じる今日このごろです。そう感じるもうひとつの理由。今月から、歌舞伎座の大道具さんでもう少しつっこんでお仕事をさせていただくことになりました。外側から取材という形からもうちょっと内部に入り込み、一緒に空気を吸いながら全体を体感させていただくという感じです。現場のリアルをきちんと知りたいと感じていたので、とてもありがたいです。

歌舞伎の裏方さんは、みなさん雪駄を履いてお仕事をされています。私も、「はい、これ持っていって!」と雪駄を支給されました(笑)。裏方さんは濃い紺色の足袋をはいておられます。私はこれまで白足袋しか履いてきませんでしたので、紺色の足袋は持っていません。そんなわけで、まだ雪駄デビューはできておりません。そのうちに。

歌舞伎のことはあまりよく分からずに、ひょんなことからこの世界で仕事をすることになり、あれこれ取材をさせていただき、ついには大道具さんのところへ出入りさせていただくことになり・・・と、人生が不思議な感じで転がっていきます。自分が強く望んで動かした部分もありますが、全く意志がないのに勝手に動いていくこともあり、その両方がミックスしている感じです。

話は変わりますが、先日、久しぶりに能を拝見してきました。友枝昭世さんの「三井寺」が素晴らしかったです。こうしたいい舞台に触れると、道具ラボの活動もがんばろう!という気持ちになります。能の余韻が抜けず、CD「観世寿夫 至花の二曲 砧 羽衣」を頻繁に聴いています。みなさんも、文化芸術の秋をたっぷりお楽しみくださいね。

追伸:10月から雪駄デビューしました。この日はズルして足袋ソックス。靴をはいているのがもともと苦手なので、鼻緒のある履物で一日を過ごせてとっても快適です。どこのオフィスでも、雪駄をはけばいいのに!なんて思ってしまいます。
雪駄

● 2013年9月2日(月)まだ暑い

【2つ目の復元をふりかえって】
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2010年6月から取り組みはじめた歌舞伎の「人工素材のかんざし、櫛」の復元ですが、8月にようやく着地できました。「歌舞伎の櫛の復元レポート最終回」にも書きましたが、当初はこんなに時間がかかると思ってもいませんでした。道具ラボが最初に復元した「鹿の子」のほうが、うんと難しい案件のように感じていたからです。結論から言うと、加工技術の問題も難しくはあったのですが、最終的に「値段の折り合いがつくか?」というところが一番のネックでした。作り手にとって、ある程度の儲けにならないと、やはりビジネスとして成立しませんが、あまり高い値段だと買う側が手が出ません。なにしろ歌舞伎の道具は消耗品が多いのです。舞台のライトは想像以上に道具に負担をかけますし、1回の公演は25日間続きます。どんどん消耗していくものに、あまり高額なものを使うことはできません。

歌舞伎の櫛の復元レポート最終回

http://www.dogulab.com/activity/k-2/15.html

最終的に鯖江の眼鏡の加工会社さんに製作をお願いしましたが、その素晴らしい会社に出会えたのは、鯖江市役所の方の力があったからです。鯖江の会社のことを熟知している方で、このあたりの会社ならこういう案件に興味をもって取り組んでくれるだろう、と目星をつけてくださり、積極的にサポートしてくださいました。鯖江の会社をまとめる人と、伝統芸能の道具についてまとめる人(今回は田村)。そういう「つなぎの役目」がタッグを組まないと、こうした課題は解決しないのだなと改めて感じました。

復元に取り組みたい「消えそうな道具」はたくさんあります。復元するには、地道な捜索(?)活動と人脈づくり、技術の勉強など「時間」が必要です。復元のためだけに毎日の時間を使えたら、もっと復元は早く行うことができると感じています。その人件費をなんとか作り、復元のスピードをアップさせたいと思っています。

この秋からは、能の道具の復元に集中していきます。これまで2年ほどかけて、こまごまとした準備をしてきました。だんだん道筋も見えてきましたので、本腰をいれたいと思っています。貴重な復元になると思うので、できれば映像で記録もしたいなと思います。少しデリケートな案件ですので、Webなどで情報は公開してきていませんが、1年後くらいによいご報告ができればいいなと思っております。これからも応援、よろしくお願いいたします!

【櫛の復元についての新聞報道】
2013年8月24日 朝日新聞

朝日新聞に「歌舞伎の櫛の復元」についてご紹介いただきました。


2013年8月21日 産経新聞

産経新聞「きょうの人」に田村民子をご紹介いただきました。


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