「京鹿子娘二人道成寺」の大道具について、小さい部分の解説をしたいと思います。
この演目に限らないのですが、舞台上部に桜を模した造花を短いカーテンのような感じで吊すことがよくあります。『助六』『義経千本桜 川連法眼館』などなど、気をつけて見ていると本当によくこれが使われています。これは大道具さんが扱う道具で、その名称は「吊り桜(つりざくら)」あるいは「糸桜(いとざくら)」と言います。
これと似たような言葉に「吊り枝(つりえだ)」がありますが、歌舞伎座の大道具では「吊り枝(または糸桜)」とは区別しています。最近、いろいろな記事を見ていてちょっと気になっているのですが、この二つの言葉を混同して、吊り桜のことを吊り枝と呼んでいることが多くみられます。
吊り桜は、4/24にオープンした「歌舞伎ギャラリー」(歌舞伎座タワー5階)にも展示されていて、間近でご覧になれます。
歌舞伎ギャラリー(松竹株式会社Webサイトより)
http://www.shochiku.co.jp/play/kabukiza/gallery/
観覧者に無料で配られるパンフレットにも掲載されていますが、歌舞伎座で使われる吊り桜は、新橋演舞場よりも色が薄いそうです。パンフレットにはその理由が書かれていなかったので、直接大道具さんにうかがってみました。歌舞伎座は間口が広いのでその分、吊り桜の分量が多くなります。このため、少し色を薄めにして、舞台の上方が重くならないように配慮しているとのこと。細やかな心配りですね。そんなところからも、大道具さんの繊細な仕事ぶりが感じられます。
ちなみに、この造花は紙でできています。以下の写真は、吊り桜用ではなく樹木に打ち付けて使うタイプのものですが、参考までにご紹介します。
それから、道成寺の鐘を上げたり下げたりする際は、機械を使わず、大道具さんが人力でされています。引き上げるときは3人、降ろすときは1人でされるそうです。やはり、間合いが大切だからだと思います。
道成寺の大道具の見どころ(背景画)については、『かぶき手帖2013』特集「歌舞伎の大道具」のP28にも、少し書かせていただいています。よろしければ、ご覧くださいませ。
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