コロナ禍は、伝統芸能の道具に携わる人たちにも大きな打撃を与えました。
なんとか手助けしたいと、この道具ラボのWebサイトでも、国や自治体などの支援情報(雇用調整助成金、持続化給付金など)を伝えていましたが、私の知識不足で、充分な活動ができていませんでした。
そこで、税理士さんと市民活動の専門家をパートナーに迎え、東京文化財研究所・無形文化財研究室長の前原恵美さん(邦楽器の製作技術などにも詳しい)と新しい活動をはじめることにしました。
「芸能道具ミライ研究室」と名付けました。略して、「道具研!」。
そもそものはじまりは、2020年9月に東京文化財研究所で行われた「フォーラム 伝統芸能と新型コロナウイルス」です。今にして思えば、コロナ禍のはじまりの時期。能楽と邦楽の現状について、さまざまな立場の人が報告し(私も能装束の窮状を報告)、座談会で語り合いました。
そのなかで、このフォーラムを企画した前原恵美さんと私が強く感じたのが「こうした危機的な状況のときこそ、新たな連携を生み出すチャンスである」ということでした。言ったからには、他人任せにせず、自分たちでそれを実践しないと!と。
これをきっかけに、道具研の「種」が生まれました。
「フォーラム 伝統芸能と新型コロナウイルス」の様子
https://www.dogulab.com/activity/tobunken20200926/
同じ年。私は論座というWebマガジンに、コロナ禍で苦しむ能装束製作の現場の様子を記事として発表しました。この記事を読んだ税理士の早坂毅さんが「なにか自分も行動したい!」とメッセージをくれました。これに呼応して、市民活動運営のプロである池本桂子さんも加わり、4人での活動がスタートしました。狙いは、平たくいうと「お金の問題」に取り組むことです。
論座:伝統芸能の裏側に深刻なコロナショック
唯一の能装束専門店も一時注文ゼロに、伝承の危機を避けるには
(無料で全文読めます)
https://webronza.asahi.com/culture/articles/2020092800010.html
これまで、いい技術をもっている職人さんが「もうからないから、子どもには継がせられない」と言うのを何度も耳にしました。そこまでいかなくても、どの課題にも、大なり小なり、いつもそこには「お金の問題」が潜んでいます。そのことに私も気付いていましたが、自分だけではどうすることもできませんでした…。でも、道具研なら、これに取り組めます!
なんとか生業として、続けていけるようにするには、どうしたらいいか。私たち道具研は手助けをするだけで、がんばってもらうのは職人さんたちですが、できることはいろいろあると感じています。コロナの出口が見えてきたら、社会の関心も薄れていくでしょう。でも、苦しくなるのは、これからだと思います。
道具研の活動は、まだ小さな芽が出たばかりです。コロナ禍への対応としては、かなり出遅れている感もありますが、焦らずじっくり活動を続けていきたいと思っています。
芸能道具が抱える課題は、山ほどありますし、急がなくてはならないものばかりです。私たち4人でできることは、限られています。たくさんの協力が必要です!
この記事を読んでくださっているみなさんにも、協力いただきたいこともでてくると思います。なにかのときはぜひ、チカラを貸してください!
しばらくは、こちらからの情報発信ばかりになるかもしれませんが、ぜひ私たちの活動を応援していただけたらうれしいです(道具研の広報体制が整うまでは、道具ラボ田村のツイッターなどで、道具研のことをお知らせしていきます@TAMIKOTAMURA)。
道具研のWebサイトは、今、準備をしているところです。3月中には、オープン予定です。どうぞよろしくお願いします。
以下は、道具研のWebサイトに掲載予定の文章です。一部、抜粋して掲載します。
■ 伝統芸能ミライ研究室
日本の伝統芸能をミライにつないでいくため、道具から考えます。
<ビジョン>
「伝統芸能の道具に携わる人が、安心して技を繋いでいけるミライへ」
伝統芸能の道具(衣裳、小道具、楽器など)を製作する現場は、原材料調達や後継者育成など、多様な課題を抱えています。これらの課題の根源には、経済面の脆弱性や情報共有の不足があると考えています。
私たちは、伝統芸能の道具に携わる人がこれらの課題を克服し、誇りと希望を持って仕事を続けられるように活動します。
<ミッション>
1)支援制度の情報提供
伝統芸能の道具製作が、安定した生業として成り立つために、彼らが利用できる国や自治体、民間団体などの支援制度の情報を収集・精査して届けます。また、制度に不備がある場合はそれを指摘し、改善するように働きかけていきます。
2)交流を促す機会の創出
伝統芸能には「異なる役割、立場の交流(例:技術者と実演者の交流)」、「他のジャンルとの交流(例:能楽と邦楽の交流)」を活性化させることで、解決できる課題が多くあると考えています。そこで、道具に携わる人たちが課題を共有し解決できるよう、交流を促す機会を創出します。
【共同代表】
田村民子(伝統芸能の道具ラボ主宰、ライター)
伝統芸能の裏方、道具製作者を取材していくうちに、伝統芸能の道具製作は多くの課題を抱えていることに気付きました。そこで、作れなくなった道具を復元する「道具ラボ」の活動を開始。しかし、続けていくうちに課題の底には「お金」の問題も潜んでいることを実感しました。多様な分野の専門家と連携して、前進していきたいです。
前原恵美(東京文化財研究所 無形文化財研究室長)
実演家―企画・製作者―「伝統芸能の道具」製作者―原材料製造者を結んで、日本の伝統芸能が抱える課題解決の糸口にしたい。伝統芸能の継承は、それ自体SDGsの縮図のように見えます。芸能継承のために、うまく繋がって自走していくために、研究者として何ができるのか、考え続けたいです。
【パートナー】
池本桂子(office KAYU代表、小さな非営利団体の事務局コンサルタント)
子どもの頃、祖母は私に歌舞伎の楽しさを教えてくれました。以来その引力に導かれ、いまこの現場にたっています。
伝統芸能を彩るたくさんの道具が、存亡の機にある現代。社会や環境の変化に伴う課題、経済的な困難を、人々の協力、連携の力で乗り越えていくための「つながり」をつくっていきます。
早坂毅 (税理士・行政書士、(有)サテライト・オフィス代表)
世の中には、お金だけでは測れない価値あるものがたくさんあります。伝統芸能の道具も、自然環境や歴史的環境も、その価値を金銭では測れません。しかし、その技術や知識の伝承、維持、保存には、それを守る人たちの経済的安定が不可欠です。価値あるものを後世に残すためのお金の流れを作りたい。そんな気持ちから、この活動を始めました。
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