諏訪流の鷹匠が使う道具のひとつに「忍縄(おきなわ)」という紐があります。
上の写真がそうなのですが、どうやって使うと思いますか?
鷹を調教する最初の段階で、鷹やは隼(はやぶさ)の足に繋いで、逃げてしまわないようにする目的で使うそうです(詳しく言うと、鷹の足に直接ではなく、足革というものにつなぎます)。まだその様子は見たことがないので、いつか見てみたいなと思います。犬のリードみたいな感じでしょうかね。
この紐を作る人がいなくて困っていると、諏訪流鷹匠家元の大塚紀子さんから相談を受けたのがきっかけで、この紐について詳しく知ることになったのですが、ただの細い紐のように見えて、実は鷹匠の知恵がたっぷりと詰まった道具でした。
この忍縄復元の強力助っ人は、以前も鷹匠の紐「大緒(おおを)」を復元してくれた組紐職人の江口裕之さん、惠さん夫妻です。相談したところ、このたびも快く引き受けてくれました。
そんなわけで、2019年5月、江口夫妻と復元応援団のメンバーで、東京都青梅市の山中にある諏訪流鷹匠の拠点を訪問しました。
まずは、大塚さんに今、使っている忍縄を見せてもらいます。
事前に大塚さんからもらった情報で、江口さんが試作品を作ってきてくれていたので、それを比較をしながら大塚さんに評価をしてもらいます。
この紐は、細ーい、細ーい絹の原糸100本が材料となっていて、作り方の分類でいうと「撚り紐(よりひも)」。作れない!と言われている困難ポイントは、その長さ。ひとつづきで、50-60mという長さが必要だというのです。
これがもっと短くていいとか、あるいは短い紐を途中で、結んだりして長くするというのでよければ、作るほうとしても難しくないようです。ただ、この紐はひとつづきでないと、いけないのには理由があるのです。
もしも結び目があったりしたら、そこが木の枝とかにひっかかったりしてしまうし、そうするとガクンと衝撃がでてしまい勢いよく飛んでいる鷹の身体を傷めてしまいます。
諏訪流では鷹は人間よりも上の存在として大切に扱います。そういうこともあって、紐はひとつづきの長いものが必要なのです。
江口さんは、3種類の作り方を考えてきてくれていて、大塚さんに提案しました。ここでは、細かくはご紹介しませんが、私たち外野もあーだこーだと議論に加わって、方針を立て、ひとまずやってみることになりました。
作戦会議の様子。画面奥のグレーの服の女性が鷹匠の大塚紀子さん。その右隣が組紐職人の江口裕之さん。
おもしろかったのは、「撚り紐でなくて、組紐ではだめなのか?」という江口さんの提案。たしかに、同じ太さの紐ができるなら、それでもよさそう。ところがどっこい、忍縄の巻き取り方などを大塚さんに実演してもらっているうちに、なんとなく撚り紐にしているのではなく、いろいろ検証した結果「やっぱり撚り紐がいい!」ということになったであろうことか、わかりました。これは結構エキサイティングな発見でした。
簡単に言うと、糸自体の撚りと、鷹匠が忍縄を巻き取るときの所作が合わさることで、鷹が飛び立つときによりスムーズに紐が出ていくようになっていたのです。この発見は、江口さんが「組紐ではだめなのか?」という提案をしなければ、わからないことでした。でも、大塚さんは「組紐で作った忍縄も使ってみたい」とリクエストしたので、それも作ってみることになりました。これはぜひ、使った感想を聞いてみたいところです。
忍縄の復元の話から、あちこちに脱線しまくった雑談もおもしろかったです。鷹のオスとメスのカップルができるときの衝撃的なチカラ比べ(?)とか、鷹の尾羽につける「尾鈴」の話、鷹狩に使う犬の種類の話(ポイントしてずっと待てるかどうか)、鷹の「神経質」の度合いの違いなどなど…。気づけば5時間もしゃべりっぱなしでした。
そんなこんなで、若葉に包まれた静かな山の中で、たくさん鷹のお話を聞かせてもらいました。鷹は、今は換羽(羽根の生え替わり)の時期で、ゆっくりと過ごしていましたが、私たちが大勢でおしかけたので、ご機嫌、斜め。警戒の鳴き声をあげていました。鷹には、申し訳なかったのですが、大塚さんにお願いをしてそばにも寄せてもらいました。やっぱり近くで見る鷹はかっこよかったです。
それにしても、大塚さんから話を聞けば聞くほど、諏訪流が引き継いできた鷹匠の文化は繊細で奥深いものだと感服しました。でもそれがあまりに深く大きいがゆえに、これを継承していくのは、大変なことであることも改めて感じました。もっと、さまざまな支援が必要だと思います。
さて、忍縄については、江口さんのほうからときどきご報告をもらいながら、私たち応援団も見守りつつ、なにかあればお手伝いをしようということになりました。
また、動きが出てきたら、ここでご報告できればと思います。
鷹匠の文化に関心を持たれた方は、ぜひ大塚紀子さんの著書『鷹匠の技とこころ 鷹狩文化と諏訪流放鷹術』(2011 白水社)をおすすめします。ここにぎっしりと書かれてありますので!